四方山噺日常録-Retreat Daily Record-

仕事を離れた人間が気ままに過ごす日常録

心惹かれる一景、思い出す情景

買い物からの帰り道、ちょうど家路に着く最後の曲がり角を曲がり終えた時に、ほぼ太陽が沈みかけ、ほのかな茜色を残すだけの夜空を見た。

綺麗だ、と思うと同時に、頭の中である景色を思い出した。

それはまだ、高校受験を目指していた頃。平日は学校の授業が終われば塾、休日は朝から晩まで塾。大変な時もあったが、学べば学ぶ程、目標に近付いている気がして、結構楽しかったのを覚えている。

確か、休日だった。その日は朝から模試で、夕方の自己採点が終われば、夜は解説授業。夕方のわずかな休憩時間に、「コンビニでも行こうか」と仲間と外に出た。

『あの記述の採点基準さぁ、どうよ?』『結構書けたと思うけどなぁ』『それより、あの問題の選択肢…』休憩時間でも、話題は受けたばかりの模試の話で持ちきりで、これじゃ休んでる気がしないね、と誰かが言って、確かに、と皆で笑う。適当に食べ物や飲み物を買い込んで、コンビニを出た帰り道。ふと、空を見上げると、ちょうど夜の空になるかならないか、というほのかな茜空が端に見えた。

その空を見て一瞬考えたのは、高校受験も、大学受験も、その先も乗り越えた未来のことだった。私はどこでどんなことをして過ごしているのだろうか?どんな夢を抱くのだろうか?その夢は、果たして叶えられるのだろうか?いつか同じような空を、長い年月を経て見上げた時に、何を考えるのだろうか?

『大丈夫?』二、三歩、先を行った仲間の1人が立ち止まって振り返る。外はほのかな茜空を残すだけで、仲間の困惑の表情もぎりぎり見て取れるだけの明るさになっていた。「大丈夫」と大股で歩いて追いつき、「さっきのあの問題さぁ…」と会話に加わる。未来よりも、考えるべきは今だと言わんばかりに。

あれから、二十年近く経ったな、と今日、空を見て唐突に思い立った。あの時の答え合わせをするならば、私は高校受験も大学受験も夢を叶え、今、あの頃行きたかった土地に移り住んで生きている。辛いこともそこそこにあったが、楽しいが上回っているから、その点はとてもありがたい。今の夢は「自分らしく休むこと」。夢はまだまだ始まったばかりだ。

次に、同じような空を見上げて、あの頃を思い出す時に、私はどこでどんなことをして過ごしているのだろうか?そして、何を考えるのだろうか?そんな事を考え、気が付いた時には家の前だった。ほんの少しだけ未来に想いを馳せながら、家の扉の鍵を回した。